中村明日美子作 ウツボラを読んだので感想ですよ。
新しい本棚を買いましたが、部屋の隅に積まれた本は全然減りません!
- 作者: 中村明日美子
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2010/06/09
- メディア: コミック
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<オススメ度>→高し。ただし、受け付けない人もいるかと。表紙をみて「なんとなくダメ」と思ったら中身を見てもやはりダメかもしれない
ゾクゾクするほどサスペンス!そしてミステリー!作者の絵柄がよく生きている。
一巻はゆるゆると事件が進む。いつ、何が起こって、何が明らかになってもおかしくない。
「スリーピング・マーダー」眠れる殺人者を起こしてはならない。
<あらすじ>
といっても、あらすじの書きようがない作品なのですよ。軽い登場人物紹介も交えて。
ある、ひとりの女性が飛び降り自殺する。顔は判別不能なほど破損して、身分を証明するものは何も無い。唯一持っていた携帯電話には、たったふたり分の履歴しか残されていなかった。
飛び降りたのは藤乃朱(ふじのあき)作家志望の不思議な雰囲気を持つな女性。
小説家・溝呂木のファン。多くの謎を持つ女性。足以外の全身が破損し、この世に残ったのはその美しい足と数々の謎だけ。
朱の携帯電話の履歴に残っていたうちのひとり、作家・溝呂木
妖艶、耽美、そして官能的な作品を書く名の通った老練の作家。しかし、小説が書けなくなっていた。
出版社のパーティーに参加した際、パーティーに忍び込んだ藤乃朱と出会い、不思議な魅力にとり憑かれる。
朱の死をきっかけに、芝居のように朱の妹と出会う。
朱の携帯電話の履歴に残っていたもう一人。双子の妹、藤乃桜。
朱と全く同じ容姿を持つ。しかし、血縁ではあったが、朱とは疎遠で最近知り合ったばかり。やはり、不思議な雰囲気を持っている。溝呂木とは姉の死をきっかけに知りあう。朱の残した多くの謎を体現するような女性。
<感想>
古典的なミステリー、そしてサスペンス。読んでいると、普通に怖い。ミステリーとしては落ちるまで評価できかねるが、サスペンスとしは十分だろう。ここまで上質なサスペンスを見れるとは思わなかった。
↑いがいの登場人物も多く登場し、その誰もが密かな苦悩を抱えている。その苦悩が、耽美的で美しいけれど一瞬で壊れてしまいそう。一人一人の葛藤から、どのような物語が出来上がるのかが楽しみだ。
作者の画風が作品の雰囲気をさらに印象づけている。謎のもととなる女性「藤乃朱」の持つ怪しさと美しさは、この作家さんでないとちょっと描けそうにない。
「ほんとかしら?」と思ったら。書店に行って本を手にとって表紙を御覧なさい。そして買うのです!ちょっと高いけど、その価値は十分ある。
印象的な「背」表紙をどうぞ
表紙は「桜」の方だと思われる。
じつは本のソデには細い両腕が両ソデに一本づつ書かれている。
・・・・・足が描かれていない。
描かれている顔、体、腕って「朱」の方が失った部分なんですよね・・・・・おーこわ
<おまけ>
スリーピングマーダーについて
「眠れる殺人者を起こしてはならない」
これははワタクシ個人のボキャブラリーから出たのもではなく、アガサ・クリスティーの小説がもとで、本作においてはとある登場キャラがこのセリフを口にします。ぶっちゃけ、サブキャラのセリフなのでこれがどう生きてくるかわかりませんが、本作の雰囲気にあっているし、印象的なので、当ブログではこのセリフを数度引用させていただきました。
ちなみに、スリーピングマーダーは「マープル婦人シリーズ」で見ることができ、普通にレンタルビデオ店で借りれます。
ついでに、そのあらすじをば・・・
ある女が結婚をし、これを機に生まれて初めてイギリスに夫とともにわたる。女は海辺にある屋敷に一目惚れし、購入することに。
しかし、引越してみると、女はその家にデジャビュを感じるようになる。「ここに住んでいたことがあるのでは?いや、しかし、私はイギリスに来るのは初めてのはず・・・」
ある晩、「モルフィ公爵夫人」という劇を観ていた際、とあるシーンで、幼い頃に自分が問題の館で殺人事件を目撃した事をハッキリと思い出す・・・。
その殺人が本当にあったとして、それはもう20年も前の事件となる。女は事件を調べることで20年間“眠れる殺人”だったものを起こそうとする。
はたして、“眠れる殺人“を起こすとどうなるのか?
ミス・マープル「”眠れる殺人”は眠らせておきなさい。殺人だとしても」
アガサ・クリスティーの遺作らしいこの作品。普通に面白いのでぜひご堪能ください。
<おまけ2>
「モルフィ公爵夫人」にて、女が殺人を思い出すシーンのセリフを。(原著があったら良かったのですがいまいち見つからないので、DVDから)
これはある男が、その双子の妹を、彼女の不逞を理由に殺すよう手下に命じ、手下がそれを完遂したあとの、手下と兄の会話。(たぶん)
マープル婦人は「これは嫉妬から双子の妹を殺した兄のセリフ」と注釈を加えている。
手下「この子らになんの罪が?」
男「狼の子の死など哀れむな。(多情な若い女の死は哀れむに足りない。)」
手下「これを見ろ」
男「見ている」
ー略ー
男「「女の顔を覆え、目がくらむ、彼女は若くして死んだ」
「双子」「嫉妬」「顔」「殺人」「若くして死んだ」
なんとなく、輪郭がウツボラに似ている。
で?なんなんでしょうね?続刊をまて!
もっさり終わる